1996.12.12(木) その③
拝啓 *※*さま
パレルモはとても不思議で恐ろしい、そして楽しいところであります。
若者にはジロジロ見られ、こちらも負けじと睨むと、ニコッと笑ってくれて、通り過ぎた後、皆で爆笑!
車庫で仕事をしている人に「フォト?OK?」と言えば、「構わないよ!」と撮らせてくれる陽気なおじさん。
アーミーファッションだと思ったら、肩から本物の拳銃をぶら下げて周りを窺っている2人の軍人さん。
ここの子供たちは、とても良い子です。爆竹でパンパンとうるさいけれど、言葉も通じない、わけのわからない日本人に、駅行きのバスを親切に教えてくれます。

「お金がないよ」と言えば、大きな声で「お金は入らないよ!」と返してくれる。バス停で並ぶ他の乗客に丸聞こえで、とても恥ずかしい。
そんなこんなで、パレルモももうそろそろ出ようかと思っております。
街を歩いても、なんだか落ち着けないのです。夜行で来た私の心と身体が、まだパレルモを楽しむ準備ができていないのかもしれません。親切な人の行為も含めて、落ち着けないのです。

やっぱり、元の目的だったシラクーサが良かった、という気持ちが、秒ごとに積もっていく。さすがは、シチリア島第一の都市、パレルモ!
次にチャンスがあれば、心と身体を整えてきます。パレルモ!
今回は残念ですが、また今度!
敬具
けいじ 12/12 noon

―― 旅する読書人より 2026.7.25
「不思議で恐ろしい、そして楽しい」――パレルモという街を、たった一言で表したこの表現に、彼の正直な驚きと困惑が凝縮されている。
手紙の形式を借りることで、彼の本音も、少しは整理されて見える。本当はもっと混沌とした感情だったかもしれないけど、それでもこの手紙を書くことで、彼なりに納得して、前に進もうとしている。
「今回は残念ですが、また今度」――そう言えるのが、パレルモへの別れの挨拶としては、なかなか良い距離感だ。
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