31.武器を持って街へ出よう!さあ、自ら信じる最高の武器を育てよう。

1996年イタリア一人旅

1996.12.15(日)その②

フィレンツェの街へ出た。メルカート・チェントロを目指す。が、全然場所がわからず、辿り着けない。蚤の市の中を……ひたすら歩いている。

古着、革製品、すごい人である。もともとフィレンツェのメインストリートは人であふれている。それを越す賑わい。街の勢いが伝わってくる。トラステヴェレの蚤の市を超える賑やかさ。リーバイス、革スエードのジャケット――

「クワント・コスタ?」

ちょっといいなと思ったジャンバー。

「ONE THOUSAND THREE HUNDRED ONLY」って。え?1,300?カードも使えるの?買う!!

つい衝動買いしちゃったな、と笑っていたら、店員さんが電卓を見せる。えー!桁が2つ多い。

やっぱり高いじゃん!じゃあ、いらないよ、やめるよ、と言ったら、110,000リラになった。買っちゃった。衝動買いだとわかってる。なんかもやもやが残る買い物をしてしまった。

ユースホステルへ戻り、晩御飯を食べた。9,300リラ。肉、ポテト、パン、ワイン、オレンジ。それにチキンとパスタ。

今日のユースホステルは日本人が少なかった。というより、一人もいない。昼間にユースホステルでゆっくりなんて、そんな勿体ないって、精力的に旅をしてるんだろうな。

この時間、外国の高校生が団体でご飯を食べていた。バスも横付けで、なんかうるさそうな面々。あれは関わっちゃダメなやつだ……気をつけよう。

さっきまでいたドゥオーモでの話を思い出した。似顔絵描きの兄ちゃんが4、5人もいた。ある兄ちゃんは、家族連れを相手に、子供の似顔絵を描いていた。

落ち着かない子供に、似顔絵描きが手を焼いていた。それでも少しずつラインを引き、それが集まって、ゆっくり、ゆっくり顔が浮かび上がってくる。すごいなあ。

これが芸術家か――フィレンツェとドゥオーモとイケメン似顔絵兄ちゃんで、自分もアートをかじっている風に、僕を満足させてくれる空気だった。

場面は変わって。ウェディングドレスをまとった女性と、かっちょいいスーツ男性が、ドゥオモをバックに写真を撮っている。ドゥオーモで結婚式を挙げたのだろうか。

僕もカメラを見せて、「いい?」って聞いてみた。

「来い来い!」最高の笑顔。そして、私は飛び入り参加!

ここでは、友達は出来放題じゃん。

みんなテンション高くなっている。

なのに……なんだよね。浮かれた自分に気付いて思う。ちょっと、ここは違うかも。

綺麗だけど、華やかで賑やかだけど、フィレンツェのような、ごった返した世界はあまり長居できないかもしれない。

シチリア島のシラクーサは、のんびり過ごせた。ローマでは、帰る場所があった。友達がいた。それに比べてフィレンツェは――

人気な観光地なんだろうな。狭いところに人がたくさん、わんさか。それがしんどいんだよね。街の人が、空気が、全体が、忙しくざわめいていると、のんびり座って日記も絵も描けない。そんな街、フィレンツェ。想像以上の大都会。

(午後8時30分、ユースホステルにて)

やることがないので……イタリアに来てからのことを思い返していた。2週間。やっと2週間たった。イタリアに来て僕は、何をしたかったのだろう?旅を通じて、どんな人間になろうとしているのか?何にも変わらないだろうか。これからの成長の糧となるものをつかみに来たんだろうか?

2週間、何もつかめていない。何も広がっていない。このまま帰るわけにはいかない。もっともっと飛躍的な成長を成し遂げるための何か……

って、「何か」って何?

結局、浅いところで思考が止まり、深いところまで行けない。

結局、「一応目的とか、生きるとか考えたから良しとしよう!」なんて、ナルシストな時間を切り上げた。

(午後8時45分)

下に降りて、日本人がいたテーブルへ参加させてもらう。デザイナーの仕事をしながら旅を続けるお兄さん。すごいなあ、自信に満ち溢れている。すごい人なのかも。消灯時間まで、話が盛り上がり楽しかった。

このデザイナーさんは、今、Macパソコンで仕事をしている。デザインを。でも、覚えてしまえば誰でもできる仕事。だから、みんながMacを持って、やり方を覚えれば、自分の仕事はすぐに他に取られてしまうだろう。そんな不安から、みんながそれに気づく前に、自分自身は次に何をすればよいかわからない。

だから旅をしようと思った――らしい。

どうやら、旅を続けて自分にとってわかったことがあるという。出会いのほとんどが、相手から声をかけてもらうパターンだという。それがもしかしたら、自分の一つの武器なんじゃないかと思い始めた、と。

(現に、僕とその人も、僕から声をかけた。確かに話しやすく、楽しい人。人から好かれる雰囲気を持っている人。)

人に話しかけたくなる。そんな武器。なんか強そうな武器。僕もほしい。

(午後11時30分)


―― 旅する読書人より 2026.7.25

「人に話しかけたくなる。そんな武器。なんか強そうな武器。」

デザイナーの言葉を聞きながら、彼は自分にも「武器」があるかもしれないと考え始めた。それはまだ、漠然としたものだ。けれど、こうして誰かの言葉に触れて、自分のことを振り返る時間を持てること自体が、旅の大きな収穫なのかもしれない。


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00.viva! Italy! リーラ!
1995年5月25日。野茂英雄が日本人メジャーデビューを果たした、歴史的な日だった。その1年後、僕は初の海外旅行デビューという、個人的な快挙を果たす。無計画で失敗の連続。初めてだらけの海外一人旅。時代はEU統合前。もちろんユーロなんて存在し

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