39.生ハムを買って、「生で食べれますか?」と質問した話。はばたけ俺!ヴェネツィアのカモメとともに。

1996年イタリア一人旅

1996.12.19(木) その②

ほろ酔いでサン・マルコ寺院を目指した。そう、ヴェネツィアでサン・マルコを目指した。

迷路のようないくつもの曲がり角、たくさんの橋を渡って、開かれた広場へたどり着く。その先にサン・マルコ寺院が見えた。これも大きかった。

アラブ系の建物で、ルネッサンスを思わせる建物。綺麗な寺院、そして広場だった。この広場は、人が多いなあ。今はオフシーズンだけど、シーズン中だったらすごいだろうな。

(11:00、サン・マルコ広場にて)

ヴェネツィアのメインを堪能できたので、帰りはゆっくり歩いた。ネクタイのお店、ピザ屋さん、靴屋さん、眼鏡屋さん、仮面屋さん、お肉屋さん。ゆっくりウィンドウショッピングを楽しんだ。

途中、寒いからバールでカプチーノとケーキを食べる。3,200リラ。美味しいケーキ、美味しいカプチーノ。おしゃれなヴェネツィア。お金がない僕でも、リッチな気分にさせてくれる。

寒すぎたので、いったんホテルへ戻ろう。インナーを着て、もう一度歩こう。ローマのように道を覚えて、今日明日だけでもヴェネツィア通になろう!と思った。

(12:33、ホテルにて)

お昼は歩きながら、ピザ2枚とカプチーノ!8,500リラ。

ヴェネツィアのカモメ(カラス?)を撮る。一羽寂しいやつかと思ったら、とんでもない。

明日はヴェネツィア近郊へ列車で行こうかな、と歩きながらどうしようかな、と贅沢な時間を過ごす。そして明後日の夜に、ヴェネツィアからローマへ夜行で帰ろう!

(午後2時、ホテル近くのベンチ)

ひたすら駅からホテルの反対側へ歩いた。人がだんだん多くなっていく。人が増えるその先へ行くと、ごくごく普通の通りに出た。バスや車の駐車場。バスターミナルからタクシー。一気に、いつもの世界に逆戻り。

どうやら、ヴェネツィアの玄関口のようだ。公園になっている。ここで車やバスを降りて、公園を超えると、水路の街、ヴェネツィアに入る。海に浮かぶ街、ある種のユートピアが、この先にある。

(16:06、バスターミナルにて)

帰り道。サン・マルコ行きの矢印に沿って歩けば、そのうち知っている道に合流することに気づいた。だいぶ道を覚えたみたい。

一番有名な橋から川を見下ろそう。ゴンドラタクシー?水上バス?貨物船。たくさんの船がここを通っていく。お互い自由運航・通行しているかと思ったけど、当たり前だよね。ちゃんとルールに沿って、お互いに気を使っているのがわかるようになった。

橋の上で、そうやって川を眺めていると、何組ものカップルが同じように眺めている。みんながみんな幸せそうで、こっちまで幸せが移ってくる。

お金をためて、またイタリアに来よう!その時は彼女と来たい!

……さっきの幸福感はどこへやら、急に寂しくなり、この旅での出会いをいろいろ思い出して紛らわそうとした。みんな、自信にあふれていた。彼らから感じるパワーに圧倒された。自分も、彼らに負けない、気後れしない生き方をしよう!旅を楽しもう!

(17:00、橋の上にて)

帰りに、生ハムの切り売りにチャレンジした。ぶら下がっている肉の塊に指をさして、「100gほしい!」と言ってみた。ここまでは調子よかった。

けど、「生で食べれますか?」と聞いてみたが、これが伝わらない。生ハムを買っておきながら、「生で食べれますか?」という質問をしたのである。

全く通じず、ほかのお客さんも集まってくる。今思うと、「こいつ何を言い出してるんだ!」という変な目で見られていたんだと思う。

生ハム、生で食べれますか?

人が集まってきて焦ってしまい、いろいろ指さして買ってしまった。チーズ、ポップコーン、水、いわしの甘露煮。11,000リラ。

ホテルに帰って、夕食前にシャワーを浴びた。これがまた大変。湯は出る。出るのだが、熱すぎる。調節しようにも、一気に水に変わるので、良い湯加減にならない。

それでも調節して浴びていたら、今度は他の部屋で湯を使い出したのか、シャワーが止まってしまった。しばらく石鹸まみれのまま、再びシャワーが出るのを待った(誰かがシャワーを使い終わるまで、ということだろう)。

さあ、豪華なディナーの時間。狭いホテルの部屋に紙を敷き、買ってきた生ハムをパンにはさむ。いやあ、パンが甘かった。生ハムの旨みを、パンの甘みが吸収してしまい、美味しいけれども今ひとつ。

楽しみにしていたチーズをかじったら――――!!ダメだ、間違えた。塩入りチーズだった。塩辛くてかじれない。いやあ、失敗した。

散歩中のバールで食べたケーキやサンドイッチを思い出しながら、パンをかじった。

昼間、バールでプチリッチな楽しみを味わい、サンドイッチで幸せを感じたすぐそばで、グッチのお店で僕の1ヶ月の旅行代の何倍もしそうなバッグを買っていく日本人の皆さん。俺を見て、よそよそしくしないでほしい!寂しいよ。

でもまあ、いいか。僕はそのハムサンドで十分満足できたのだから。

(午後7時30分、ホテルにて)

ふと目が覚める。ビニールをくしゃくしゃ丸めたり伸ばしたりする音で起こされた。隣の人が朝方帰ってきて、遅めの夕食か早めの朝食をとっているのかと思った。けど、長い。長すぎる。うるさいな、と思ってよく聞いたら、雨だった。

雨か。やだなあ。明日、雨か。いろいろ歩けないじゃん。何度も目が覚めては「雨か」というのを繰り返して、20日の朝を迎えてしまった。

(5:30、ホテルにて)


―― 旅する読書人より 2026.7.25

ヴェネツィアの橋の上で、彼はカップルたちの幸せな姿を眺め、自分も彼女と来たいと思い、そしてすぐに寂しくなる。その感情の揺れが、まさに一人旅のそれだ。

そして、生ハムの失敗。買っておきながら「生で食べれますか?」と聞く。その無邪気さが、この旅のユーモアを象徴している。

それでも、彼は「このハムサンドで十分満足できた」と書く。その一言が、この話をただの失敗談に終わらせない。


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