41.セニョーレ!どうして君は、横書きの日記を片手に、縦書きの本を読んでるんだい?

1996年イタリア一人旅

1996.12.20(金) その②

座っていたテーブルはもう閉まるから、と追い出された。駅のロビーへ行くと、イタリアの子供合唱団が駅構内で歌っている。クリスマスの曲だったり……賑やかだ。

時刻表で、16:20ボローニャ発、ヴェネツィア18:30着で帰ろうと決めた。

それにしても冷える。寒い。座りたいなあ。

イタリアに来て20日が経った。何がこんなに楽しいんだろう?歩いていてワクワクする。散歩が飽きない。散歩ということが飽きない時間を過ごせるのか、イタリアがそうさせているのか。やっぱり、街並みだろうな、と思う。

でも、今回は全くのフリー旅行。いつもフリータイム。自由なのが良いのだろうか。無計画で無駄な部分もあるけど――

日本語はどこへ行っても通じない。何を書いても誰も読めない。だから、隣に誰がいようと自由に日記で書きたいことを書ける。どこにいても、自分の世界が作れるのがいい。混んでいるマックやバールでも、日記を開いて、日本語で考えて、日本語で文字にする。誰も読めないのだから、自由にはばたける。

自分だけの世界の出来上がり。でも逆に、自分で作った世界が壁となり、誰にも入ってきてもらえない寂しい空間となる。自由で気ままな分、寂しさと向き合うと、人一倍寂しくなる旅行。

また、電車が遅れている。電子時刻表の見方も、だんだんわかってきた。ホーム番号の隣の数字は、今これだけ遅れてますよ、という数字だね(え?誰でもわかる?)。

ヴェネツィア行きは……15って書いてあるから……え?15分も遅れているの?人も多くなってきた、座れるかなあ。

イタリアのホームでは、日本のように停車時のドアの場所がわからない。だから、先に並ぶということができない。しかも、案内が出て、到着するホームもその場でわかる。だから、目的の電車が到着した瞬間、みんなの目の色が変わり、一瞬血走るのがわかる。こんなに混んでいるときは、人の動きで電車が来るなと察知し、自分もこの競争というか、人ごみに加わる。

頼む!ここで止まってくれ!列車は左から来た。左から右へ列車がまだ動いている。右へ右へ、待つ人も右へ右へ流れ出す。横歩きカニ状態。

内心「止まりそうになってから動けよ」と思う。だって、俺の狙っているところにみんなやってくるんだもん。

電車が止まりそうなところ、ちょうどいい場所にドアが近づいてきた。左からでっかい荷物を背負った兄ちゃんが近づいてくる。と、僕が近かったのに、インを取られちゃった。

でもなんとか座れそう。他の人はもうごった返し、予想が外れた人は大慌て。なんで、このヴェネツィア‐ボローニャ間はこんなに電車利用者が多いの?

上記イタリア地図と同じ尺度 名古屋→東京(=ボローニャ→ヴェネツィア)
上記イタリア地図と同じ尺度 名古屋→岡山(=ボローニャ→ミラノ)

席は満杯。隣のオヤジが、書いている日記を覗き込んでいる。どうせ読めないだろうと、私も堂々と文字を進める。それでも覗き込んでくるから、オヤジの悪口を書こうかと思ったけど、自分で自分を「性格悪いな」と思い、実際には書かずに本を読み始めた。

(16:42、電車にて)

しばらく読んでいると、「セニョーレ!」と声をかけられた。さっきのオヤジだ。「どうして、日記は横書きなのに、お前の読んでる本は縦書きなんだ!」

確かに、日本語は縦書きも横書きもできるな、と言われて気づいた。

「日本語はね、二通りあるんだよ」と伝えたら、部屋のみんながうなずいてきた。やっぱりイタリアは、電車の中でいろいろ仲良くなるんだろうな。そういう国なんだと、合点した。

オヤジは何度も「どこへ行くんだ」と聞いてくる。何度もヴェネツィアだと言っているのに。何度か繰り返して、やっと彼の質問の意図がわかった。急いで乗ったこの電車は、ミラノ行きだったってこと。

ミラノ行きに乗っている日本人(私)が、ヴェネツィアへ行くと言っている。東京から東北に行こうとしているのに、電車は大阪行き――くらいの間違いだ。

オヤジはパドヴァで降りて行った。

まじかー。

「ヴェネツィア行き」って書いてあったのに――。

またミラノかよー。

ドジ踏んじゃった。

もう疲れて、これが一人旅の醍醐味!なんて思えない。はあー。

(17:52、電車にて)

19:10にミラノに着いた。ヴェネツィア行きの電車を探す。確か昨日は19時台にあったよな……19:05発!残念。今日ばっかりは遅れておらず、乗れない。

前回と同じだと、21:05ミラノ発、24:00ヴェネツィア着。これはさすがに遅いんだよね。

別の電車を探す!トリエステ行きがどうやらヴェネツィアへ行けるらしい。20:05発、ヴェネツィア到着22:55。これだね。

晩御飯は、前に言ったミラノ駅のセルフサービスのお店で、たことサラダと、パンと……結構な出費。

そろそろ電車へ急ごう。

(19:58、ミラノ駅構内)

意外にも電車はスタンバイしていた。時間通り出発!できた。

でもなかなか寝れない。今日は、ヴェネツィアからボローニャへ2時間半。帰りはミラノまで3時間。そして今また3時間の電車に乗っている。いやあ、電車オタクじゃないのに、1日にこんなに電車に乗っていたら、それは飽きるよね。頭も痛くなってきた――最悪。

(21:53、電車にて)

到着直前は、席部屋は貸し切りでベッドにして横になっていた。でも、終点じゃないから、寝ないように気をつけるのが、結局つらい。

何とかヴェネツィアに到着し、ホテルにも無事に着いた。さあ、寝よう。

(23:34、ホテルにて)


―― 旅する読書人より 2026.7.25

「日本語は誰にも読めない。だから自由に書ける」――彼は日記をそうやって書いている。その一方で、「自分だけの世界が壁になる」とも書く。

自由と孤独は、同じコインの裏表だ。

そして、電車の中で日本語の縦書きと横書きの話になった。イタリア人のオヤジとの、たわいもない会話。それが、彼の旅に少しだけ温かさを加えている。


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